「簡単な事だと思ったんですけどね…。」事件

今週のお題、「人生最大のピンチ!」
を書こうと予告しつつ、2日も書けませんでした。
すいません。


さて、本題ですが…

それは、私がまだ10代か20代前半頃のことでした。
当時私は、東京で、貧乏劇団員でした
(東京演劇集団 風という劇団ですこれについてはまたいずれ…)

その日も夜遅く稽古が終わり、風呂なしトイレ共同アパートだったので、
銭湯に行こうとしたときのことでした。
もう銭湯も閉まる、ギリギリの夜12時少し前だったかと思います。
人気のない下町の道を歩いていると、後ろからカツカツ駆け足する音が聞こえました。
夜中にマラソンする人はよくいるけど、明らかにスニーカーの音ではありませんでした。
なんとなく気になって、後ろを振り返ると、その音も止まり、遠くの方に人影が見えました。
が、知り合いは東京にいなかったので、何だ?と思うくらいで、また私も歩きはじめました。
すると、また、カツカツカツカツ駆け足が近寄ってきました。
なんか変だな?と思いもう一回振り返りました。
すると、また足を止め、今度はもう少し近くにいて、こちらを見ているように感じました。
しかし、暗がりでしたので、よく顔まで見えなかったので、
あちらの人違いか何かかな?と思い、少し早足でまた歩き出しました。
やっぱり、カツカツ音はこちらに向かってきました。
気味悪い感じを覚えながらも、今度は振り向かず無視することに決め、歩いていました。

近所の小学校のグラウンドにさしかかった時でした。
北海道の小学校と違って、グラウンドには高いフェンスがめぐらされています。
一台の車がそのフェンスに寄せるようにして駐車してあり、
私の歩く先を阻んでいました。
その時にはもう、その足音は私の右手真横近くまで来ていたので、
その人が通りすぎてから、その車を避けようと、足を止めました。
すると、その足も私の真横で止まったのです!

恐る恐る目線を足元からだんだん上の方にあげていくと、
スーツを着て、カバンを持ったサラリーマン風の男でした。
当時若かった私には“おじさん”と感じられましたが、40代くらいだったかもしれません。
私も身長は高い方ですが、もう少し大きな男に感じました。

そして、その男はまっすぐ私の方を見ていました。
(!?)
私は、恐ろしさを抑えて、
「何すか?」と短くたずねた。
少し間があって、その男は、ゆっくりと落ち着いた口調で
「簡単な事だと思ったんですけどね…」
と言った。
(!!!???)
もうパニックで、脳みそが忙しく働きはじめました。
(え!?何が?何かやろうとしたの!?それは俺に!?何を!?)
(もしかして俺を後ろから刺そうとしたの!?)
(それともどこか他の場所で殺人未遂を起こしてきて、ちょっと興奮状態!?)
いろんな想像が頭を駆け巡りました。
そしてやっと発した言葉が
「は!?」でした。
きっと誰もが同じことを言ったと思いますが…
すると男はもう一度同じ口調で
「簡単な事だと思ったんですけどね…」と繰り返しました。
私の頭ではその男はすでに妄想殺人者に仕立て上げていました。
しかしながら、この男に何があったんだという好奇心もかなりあったので
「何がですか?」と冷静にたずねた。
男は三度、今度は少し強い口調で
「簡単な事だと思ったんですけどね…」
と言って、片方の手をスッと自分の顔に向かって上げたような気がした。
とっさにヤバイと感じた私は
(ギヤー!!)
と頭では思いつつも
叫んだ言葉は「何すかーー!!」でした。
そしてその場からもうダッシュで引き返し一本道を曲がったら交番と言うところで
もう一度振り返りました。
男はしばらくこちらを見ていましたがあきらめたように
去っていきました。
私は恐怖と興奮ですぐには銭湯に行けず、交番のある大久保通りに出て
その向かいにあるセブンイレブンでしばらく立ち読みしていました。


今でも「あれはいったい何だったんだ」と思い返します。